記者発表のご案内


「宇宙の暗黒物質の空間分布を初めて測定
“ダークマターの中で銀河が育つ”銀河形成論を観測的に検証」


記者発表日時: 2007年1月5日(金)14:00-15:00
解禁日時 :2007年1月8日(月)03:00 (午前3時)
上記の解禁日時で確定致しました。宜しくお願い致します。
記者発表会場: 国立天文台解析研究棟大セミナー室
発表者 : 谷口義明(愛媛大学大学院 理工学研究科 教授)
        唐牛 宏(国立天文台 光赤外研究部 教授)


 宇宙の中で、たくさんの銀河が泡状の大規模構造を作って分布していることが 1980年代後半にわかり、銀河形成論に大きなインパクトを与えた。また、その ような宇宙大規模構造がどうしてできたのかが大きな謎として呈示されていた。
 銀河や、銀河の作る構造は、宇宙初期に生じた密度の小さな揺らぎ(凹凸)が 少しずつ成長して、130億年余の時間をかけて進化してゆくと考えられている。 その際、目に見える物質の揺らぎだけでは、構造が成長するまでに時間がかかり すぎる問題点がある。そこで、目に見える物質よりも数倍質量密度の高い、 ダークマター(暗黒物質)があり、その密度の揺らぎがまず濃くなってゆき、 その中で銀河の「種」の成長を促すというアイデアが提唱された。 ダークマターの存在は、近傍の銀河や銀河団の観測から知られていたが、これが 宇宙の大規模構造の形成にも重要な役割を果たしていたという考え方である。 それでは、「目に見えない」ダークマターは、実際の宇宙の中では、どのように 分布しているのだろうか?そして、銀河の形成とはどのように結びつくのだろうか?
 ハッブル宇宙望遠鏡のトレジャリー(基幹)・プログラムであるCOSMOSプロジェクト (Cosmic Evolution Survey:宇宙進化サーベイ)では、まさにこの観測的検証を 行うために、2平方度の視野の天域を高性能サーベイカメラで撮像観測を行った。 0.05秒角の分解能で約50万個の銀河の形態を詳細に調べ、「重力レンズ効果」と 呼ばれる手法を用いて、視野内のダークマターの分布を調べた。目には見えない ダークマターも、「質量」は持っている。ある場所に質量を持つ物質がより集中 して分布していると、相対論的効果によって背景の天体の像にゆがみ(重力レンズ効果) が生じる。この「ゆがみ」の程度によって、そこにどれだけの質量があるのかを 推定できるのである。
一方、国立天文台すばる望遠鏡では、COSMOSプロジェクトに連携する重点プログラム を採択し、主焦点カメラを用いてCOSMOSフィールドの多色撮像観測を行った。 その結果、解析に用いられた約50万個の銀河の距離を推定することに成功した。 この結果を、ハッブル宇宙望遠鏡の結果と合わせて解析すると、重力レンズ現象 を引き起こしているダークマターの距離が推定できる。これにより、ダークマター の3次元的な空間分布(図1参照)を世界で始めて明らかにすることができ、 ダークマターもまた、大規模構造を形成していることが、明らかになった。 そして、これを、銀河の3次元分布と比較した結果、銀河はまさにダークマター の作る大規模構造の中に分布していることがわかったのである(図2参照:この図 は天球に投影した2次元図)。今回の観測で「ダークマターの作る大規模構造の中 で、銀河が形成され、進化してきた」というシナリオが観測的に検証されたこと になる。
このような画期的な研究成果が得られたのは、2平方度という広い視野を、 ハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラで撮像観測したことと、すばる 望遠鏡による銀河の距離を決める大規模撮像観測の成功という2つの要素が 上手く機能したことによる。今回の研究成果は、2つの偉大な望遠鏡の連携 プレーが功を奏して得られたという意味で、新しい時代の観測研究の方向性 をも提示したことになる。この成果は、2007年1月の Nature 誌に 発表される。



図1 COSMOS天域におけるダークマターの3次元構造。左手前が近傍の宇宙であり、 右奥に行くに従って私たちからの距離が遠くなる。一番右奥まで行くと、約80億光年 の距離に達し、そこでは2.7億光年(84Mpc)四方の領域をみていることになる。 (Massey et al. 2007, Nature in press)[STScI, Ray Villard]

図2 COSMOS天域で見える銀河の分布(左)とダークマターの分布(右)。これらの イメージは天球に投影した2次元分布である。両者の分布はよく似ていることが わかる。(Massey et al. 2007, Nature, in press)[STScI, Ray Villard]