今回の研究成果のポイント


 COSMOS天域の広さは2平方度ですが、これは1.4度×1.4度の広さの視野に なります。満月を並べると3×3=9個もすっぽり入ってしまう広さになります。 この天域をHSTの高性能サーベイカメラACS(Advanced Camera for Surveys)で 撮像しました。波長帯はIバンド(814ナノメートルを中心にして、約100ナノ メートル帯域幅をカバー)です。ACSは0.05秒角の精度で撮像が可能です (地上の望遠鏡では、0.5秒角から1秒角程度の精度になります)。しかし、 視野が3分角×3分角しかないので、COSMOS天域を全部観測するには625回に 分けて観測する必要があります。そのため、2年間にわたり、HSTの観測時間 の10%を投入して観測を行いました。
 Iバンドの情報だけでは銀河の性質や距離がわからないため、すばる望遠鏡 の主焦点広視野カメラSuprime-Cam(シュプリーム・カム)を用いて、可視光 帯全域に及ぶ撮像観測も行いました。Suprimce-Camをもってしても、 COSMOS天域を観測するには9ショット必要です。さらに可視光帯の 7つの波長帯で観測したので、約30晩の観測時間を要する大規模な観測に なりました。このすばる望遠鏡の観測で、約120万個 もの銀河がCOSMOS天域で見つかりました。これらの測光データを用いて、それ ぞれの銀河の距離を推定することに成功しました。これにより、COSMOS天域に 見える銀河の3次元構造がわかりました(図4)。
 HSTの観測で検出された約50万個の銀河の形態を詳しく調べることができます。 形態のゆがみを統計的に解析すると、ダークマターの重力による「弱い重力 レンズ効果」のおかげで、どの方向にダークマターが集中して分布しているかが わかります。ここで重要なことは、弱い重力レンズ効果を受けている銀河の 距離がすばる望遠鏡の撮像データからわかっていることです。銀河の距離が わかると、レンズの位置を推定することができるので、ダークマターの 3次元空間分布を調べることができます。
 つまり、HSTによる高解像の画像データと、すばる望遠鏡による銀河の距離 測定との合わせ業で、ダークマターの空間分布を暴きだしたことになります。 HSTの観測時間も膨大でしたが、すばる望遠鏡の観測時間も30晩を超えました。 このような大規模な観測が功を奏し、ようやくダークマターの空間分布が 見えるようになったのです。


図4 すばる望遠鏡の観測で得られたCOSMOS天域の銀河の表面個数密度分布。 ここでは天球に投影した図を示しているが、3次元構造も調べられている。 (Scoville et al. 2007, ApJS, in press)