重力レンズとは


 アインシュタインの一般相対性理論では、銀河などの質量を持つ天体 (一般に物体)があると、その影響で時空が歪みます。背景の天体から 電磁波がやってくると、その歪んだ時空を通過することにより、電磁波の 進む経路が変わります。こ観測者から見ると、電磁波いろいろな方向から 視線に入り込んでくるため、あたかも重力源(この場合は銀河)がレンズ のような役割を果たしているように観測されます。これを重力レンズ効果 と呼びます(図5)。
 図6に示した例は、銀河団が重力レンズ効果を引き起こしている場合です。 この銀河団(Abell 2218)は約21億光年彼方にあります。背景にある、 もっと遠い所にある銀河の像が、重力レンズ効果でアーク(弓)状に 見えています。銀河団にはダークマターがたくさんあるので、非常に 顕著な重力レンズ効果を発揮します。これを「強い重力レンズ効果」 と呼びます。


図5 強い重力レンズ効果の概念図。[STScI]

図6 強い重力レンズ効果の例。21億光年彼方の銀河団Abell2218に付随する ダークマターの重力によって、この銀河団の背後にある、より遠方の銀河が 重力レンズ効果を受けてアーク(弓)状に見えている。[STScI]

一方、弱い重力レンズ効果と呼ばれるものがあります。それは銀河団などの 顕著な構造がなくても、銀河が適当に集団化していると、その背景にある銀河 から放射される電磁波は弱いながらも重力レンズ効果を受けます。その場合、 強い重力レンズ効果の場合のように、銀河の姿がアーク状に見えることはあり ませんが、少しだけ変形して見えます(図7)。これを「弱い重力レンズ効果」 と呼びます。視野に見えているたくさんの銀河の形状を統計的に調べて、どの 方向にどの程度の質量があるかを調べることができます。コスモスでは、この 弱い重力レンズ効果を使って、ダークマターの空間分布を調べたことになります。



図7 弱い重力レンズ (WEAK LENS) 効果。(上)ランダムな銀河分布。 (下)上図のランダムな銀河分布に対して、弱い重力レンズ効果が効いている 場合の銀河の見え方の例を示す。銀河の形状がレンズ効果で歪んでいることに 注意。(Jason Rhoads @ Caltech)