Press Release on 2019 March 13
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# 図1 - 5(高解像度版など含む)は教育・報道目的に限り、画像提供元を明示した上で自由に使用できます。図2, 5については画像提供元の記載を省略しても構いません。
愛媛大学の研究者を中心とする国際研究チームが、地球から約130億光年離れた超遠方宇宙において、83個もの大量の巨大ブラックホールを発見しました。巨大ブラックホールが超遠方宇宙にも普遍的に存在することを初めて明らかにした重要な成果で、宇宙初期に起こった「宇宙再電離」の原因に対しても新たな知見を与えるものです。図1に、発見された巨大ブラックホールの一例を示します。
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図1:研究チームが新発見した、地球から距離130.5 億光年にある巨大ブラックホール(矢印の先にある赤い天体)。この画像は、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCによる探査観測で得られたものです。(画像提供:国立天文台)
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巨大ブラックホールは太陽の100万倍から100億倍にも達する重さを持ち、その誕生過程は謎のままですが、宇宙に普遍的に存在することが知られています。しかしビッグバンに近い宇宙初期の時代にもやはり普遍的に存在するのか、そしてその個数密度はどれくらいか、といった基本的な事は分かっていませんでした。その答えを得るために、世界中の研究グループが競い合いながら、超遠方宇宙を舞台とした巨大ブラックホール探査を進めてきました。巨大ブラックホールを見つけるには、それが周囲の物質を飲み込む過程で明るく輝く「クェーサー」を探す方法が効率的です。図2にクェーサーの想像図を示します。しかしこれまでの探査では、超遠方宇宙には非常に稀にしかクェーサーが発見されず、しかも見つかるのは現在の宇宙では珍しいような、最重量級の巨大ブラックホールによる最も明るいクェーサーに限られていました。
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図2:クェーサーの想像図。中心には太陽の100万倍から100億倍もの重さ(質量)を持つ巨大ブラックホールが存在します。このようなブラックホールは、多くの銀河の中心部を住処として、宇宙に普遍的に存在します。巨大ブラックホールが周囲の物質を活発に飲み込み始めると、宿主である銀河全体をも凌駕する非常に明るい光を放ちますが、そのような活動的な巨大ブラックホールのことを特に「クェーサー」と呼びます。(画像提供:松岡良樹)
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すばる望遠鏡では現在、最新鋭の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam (HSC)」を用いて、300夜に渡る大規模な探査観測を実施しています。研究チームは、そこに写っている膨大な数の天体の中から、まずは超遠方クェーサーの特徴を示す候補天体を選び出しました。次にすばる望遠鏡、大カナリア望遠鏡、ジェミニ望遠鏡という3つの大口径望遠鏡を用いて、候補天体に対する集中的な追観測を行いました。こうして得られたスペクトル(図3参照)の特徴から、研究チームは83個の超遠方クェーサーを新発見することに成功しました。これらは従来知られていたクェーサーのわずか数パーセント程度の明るさで、今回初めてその微弱な光をとらえ、普通の重さの巨大ブラックホールが超遠方宇宙にも多数存在することを初めて明らかにしました。一方で文献調査の結果、別の候補天体のうち17個については過去にスペクトルの報告があり、超遠方クエーサーであることが確認されました。これらはHSCの独立な観測データによる再発見ということになります。測定されたクェーサーの個数密度は一辺10億光年の立方体ごとにおよそ1個でしたが、過去の探査では観測感度の限界によって、そのわずか2割ほどに当たる最も明るいクェーサーしか検出されてきませんでした。図4に、今回の探査によって発見された100個(新発見83個、再発見17個)のクェーサーの画像を示します。
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図3:研究チームが発見した超遠方クェーサーのスペクトルの一例。天体から届く光を分光器によって波長ごとに分解し、光の波長を横軸に、光の強さを縦軸に取って表示したものをスペクトルと呼びます。スペクトルの形状を分析することで、観測した天体がクェーサーであることや、その天体までの距離を決定することができます。この天体の場合、波長0.122マイクロメートルで放射された水素の輝線が、宇宙膨張の効果によって波長が伸びた(赤方偏移した)結果、波長0.896マイクロメートルで強い光のピークとして観測されています。この事実から赤方偏移の値は6.37となり、地球からの距離に換算すると約130億光年となります。(画像提供:国立天文台)
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図4:研究チームが発見した100個の超遠方クェーサーが、各パネルの中央に写っています。上7段が新発見された83個、下2段が再発見された17個です。超遠方にあるため、宇宙膨張による赤方偏移と宇宙空間での光の吸収効果で、このように非常に赤く観測されます。画像は全て、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCによる探査観測で得られたものです。(画像提供:国立天文台)
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発見されたクェーサーはどれも地球から約130億光年の距離、つまり現在から約130億年前の宇宙に存在したことになります(図5を参照)。ビッグバンからその時代までは、現在の宇宙年齢(約138億年)のわずか5%ほどの時間しか経過しておらず、そのような若い宇宙にも巨大ブラックホールが普遍的に存在することは驚きです。また研究チームの発見した中には、地球からの距離130.5億光年のクェーサーが含まれていました(図1の天体)。現在人類の知る巨大ブラックホールの最遠と次点の記録は、いずれも欧米の研究チームによって達成され、それぞれ地球からの距離131.1億光年、130.5億年です。今回は日本主導の探査により、次点の記録に並んだことになります。
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図5:光の伝わる速さが有限であるため、遠くを観測するほど過去の宇宙が見えてきます。研究チームはすばる望遠鏡を使って、手前に広がる銀河宇宙を飛び越え、地球から距離およそ130億光年にある超遠方宇宙を探索しました。得られた観測データには今から約130億年前の宇宙に存在した多数の巨大ブラックホールが写っていました。ビッグバンからその時代までは、現在の宇宙年齢(約138億年)のわずか5%ほどの時間しか経過していないことになります。(画像提供:松岡良樹)
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一方で初期の宇宙では、「宇宙再電離」と呼ばれる宇宙空間全体のプラズマ化が起こったことが分かっています。宇宙の歴史の中で極めて重要な出来事ですが、プラズマ化を引き起こしたエネルギーが一体どこから来たのかは未解明です。有力な仮説の1つとして、未検出の超遠方クェーサーが非常に多数存在しており、それらの膨大な放射エネルギーによって再電離が起こったとの予測もありました。しかし今回の探査によって個数密度が初めて精密測定され、宇宙空間全体をプラズマ化できるほど多数の超遠方クェーサーは存在しないことが明らかとなり、クェーサーによる再電離の仮説は棄却されることになりました。再電離を引き起こしたのは別のエネルギー源、おそらくは初期の宇宙で誕生しつつある多数の銀河ではないかと推測されます。
今回の研究は、すばる望遠鏡の最新鋭カメラHSCが持つ世界随一の探査観測能力によって、初めて可能になりました。さらにすばる望遠鏡、大カナリア望遠鏡、ジェミニ望遠鏡という3つの大口径望遠鏡を集中的に使用できたことが、83個もの超遠方クェーサーを一挙に新発見するという大きな成果につながっています。特にすばる望遠鏡では3年間でのべ30夜に渡る追観測が行われましたが、その間に晴天に恵まれたことも幸いしました。「私たちが発見した多数のクェーサーに対しては、世界中の研究者によってこれから多面的な観測が行われ、詳細な性質が明らかにされていくことになります。また測定された個数密度や明るさの分布を数値シミュレーションの予測と比較することで、初期宇宙での巨大ブラックホールの形成・進化のプロセスに新たな知見を得ることもできるでしょう。」と、研究チームを率いる松岡氏は語っています。研究チームでは、今回の成果をもとにさらに遠方への探査を進め、巨大ブラックホールが誕生した経緯を明らかにしていきたいと考えています。
本研究は、日本、台湾、米国プリンストン大学の研究者による国際共同プロジェクトです。愛媛大学の松岡良樹氏(登壇者1)がリーダーとして研究チームを率い、追観測の立案・実行や得られたデータの解釈には、主に東京大学の柏川伸成氏(登壇者2)、プリンストン大学のマイケル・シュトラウス氏、マックス・プランク天文学研究所の尾上匡房氏、バルセロナ大学の岩澤一司氏、台湾國立清華大学の後藤友嗣氏らが協力しました。その他40名近くの研究者が、観測結果を受けた議論などを通してそれぞれに貢献し、本研究を成功に導いたものです。なお本研究を柱とする「巨大ブラックホールの進化に対する観測的研究」の業績に対して、研究チームの松岡氏には昨年度の日本天文学会研究奨励賞が授与されています。
本研究は日本学術振興会の科学研究費補助金(番号JP17H04830)と、三菱財団研究助成金(番号 30140)による援助を受けています。研究成果は5編の学術論文:
(1) "Discovery of the First Low-luminosity Quasar at z > 7", Matsuoka et al., The Astrophysical Journal Letters, 872 (2019), 2
(2) "Subaru High-z Exploration of Low-luminosity Quasars (SHELLQs). V. Quasar Luminosity Function and Contribution to Cosmic Reionization at z = 6", Matsuoka et al. 2018, The Astrophysical Journal, 869 (2018), 150
(3) "Subaru High-z Exploration of Low-luminosity Quasars (SHELLQs). IV. Discovery of 41 Quasars and Luminous Galaxies at 5.7 < z < 6.9", Matsuoka et al., The Astrophysical Journal Supplement Series, 237 (2018), 5
(4) "Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars (SHELLQs). II. Discovery of 32 quasars and luminous galaxies at 5.7 < z < 6.8", Matsuoka et al., Publications of the Astronomical Society of Japan, 70 (2018), S35
(5) "Subaru High-z Exploration of Low-luminosity Quasars (SHELLQs). I. Discovery of 15 Quasars and Bright Galaxies at 5.7 < z < 6.9", Matsuoka et al., The Astrophysical Journal, 828 (2016), 26
として出版されています。
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松岡 良樹
愛媛大学 宇宙進化研究センター 准教授
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E-mail: yk.matsuoka@cosmos.ehime-u.ac.jp |
研究室 Tel: 089-927-9579 |
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