日本天文学会では1988年から、日本天文学会研究奨励賞を創設し、 優れた研究成果を挙げている若手天文学研究者に対して賞を授与してきています。 2011年春季年会総会において、長尾透助教が日本天文学会研究奨励賞を受賞しました。
今回授賞対象となった研究テーマは「宇宙化学進化の観測的研究」です。 長尾助教がそのテーマのもとで進めてきた三つの研究成果の詳細は以下の通りです。 なお、天文学では、時間と共に元素組成比が変化することを「化学進化」と呼んでいます。
(1) 長尾助教は主にイタリアの研究グループとの国際共同研究により、銀河の重元素量を測定する診断方法の研究を行い、 この研究を踏まえて、遠方宇宙における銀河の重元素量測定を系統的に進めた結果、約100億年前の宇宙において 大質量銀河が活発な化学進化を遂げていたことを突き止めました。
(2) 長尾助教は、カリフォルニア大学などとの国際共同研究により,国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡を使って 遠方銀河を調査し、化学進化の最初期段階に存在したと考えられている「第一世代天体」の探査も世界に先駆けて 進めました。長尾助教らによる一連の観測では第一世代天体の発見には至りませんでしたが、第一世代天体が持つ べき性質に対して制限を与え、理論研究に示唆を与える結果を得ることができました。
(3) 長尾助教は、遠方宇宙に存在する巨大ブラックホール天体に着目した宇宙化学進化の研究も進めてきています。 巨大ブラックホール天体はその莫大な重力エネルギーのおかげで銀河よりもはるかに明るく輝くため、遠方宇宙 (昔の宇宙)における化学進化を研究するうえで便利な存在です。 この研究により、遠方宇宙における巨大ブラックホール周辺では宇宙開闢後 わずか十数億年程度の間に急速に化学進化が進んだことが分かりました。