私たちはハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラム“宇宙進化サーベイ”、「コスモス・プロジェクト」の一環として、すばる望遠鏡の主焦点カメラで 126億光年(注1)彼方の宇宙に約80個の若い銀河を発見しました。 ハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラが撮影したこれらの銀河の画像を解析したところ、54個の銀河で詳細な形を調べることができました。 8個は二つの小さな銀河の集まりで、残り46個は一つの銀河のように見えていますが、少し伸びた構造をしていました。 コンピュター・シミュレーションを駆使して調べたところ、二つ以上の小さな銀河が非常に近い距離にある場合に、観測された少し伸びた構造が再現できました。 126億光年彼方の宇宙では、小さな銀河の塊が衝突することで星が活発に作られ、大きな銀河へと育っていく途上にいることがわかりました。
現在の宇宙(宇宙年齢=138 億歳)には、天の川銀河のような巨大銀河がたくさんあります(星の数は約 1000 億個で大きさは約 10 万光年)。 しかし、宇宙誕生直後からこのような巨大銀河があったわけではありません。
銀河の種ができたのは宇宙年齢が 2 億歳から 3 億歳の頃です。銀河の種は冷たいガス雲ですが、大きさは現在の銀河の 1/100 程度で質量は 100 万分の 1 程度です。 その中で、宇宙の一番星が生まれた時が銀河の誕生です。 その後、小さな銀河の種は周囲にあった同様の種とどんどん合体し、成長してきたと考えられています。 人類が行ってきた深宇宙探査のおかげで、130 億光年彼方(宇宙年齢= 8 億歳)まで銀河が見つけられるようになってきました。 ところが、まだ銀河の成長の様子をつぶさに見ることはできていませんでした。
若い銀河の発見はすばる望遠鏡が得意とするところですが、それらの形を詳細に調べるにはハッブル宇宙望遠鏡の高い解像力が必要です。 私たちはまさに、すばる望遠鏡で 126 億光年彼方の銀河をたくさん見つけ、ハッブル宇宙望遠鏡でその形を詳細に調べてみました。 すると、54 個中 8 個は、図1に示すように二つの小さな銀河が衝突しているように見えることがわかりました(注2)。
では、ひとつの銀河のように見える残り 46 個の若い銀河は、本当にひとつの銀河なのでしょうか? ハッブル宇宙望遠鏡の画像をよく見てみると、少し細長い形をしているものが多いことに気がつきました。 その例を図2に示しました。
私たちは、「ひょっとしたらハッブル宇宙望遠鏡でも分解できないくらい、二つの小さな銀河が近づいているのではないか?」という疑問を持ちました。 そこで、コンピュータを使ってチェックしてみることにしました。 まず、1 個に見える銀河の形を楕円でフィットし、楕円率を求めます。それを銀河の大きさに対してプロットします。 次に、コンピュータの中で、二つの小さな銀河をさまざまな角距離において、実際の銀河と同じ測定方法で楕円率と大きさを測定し、観測データと比較してみます。 その結果が図3です。
すると、コンピュータによるシミュレーションの結果と観測結果は見事に一致しました。 つまり、ハッブル宇宙望遠鏡でも分解できないくらい、二つの小さな銀河が近づいていたために、1 個の銀河に見えていたのです。
もし、このアイディアが正しければ、一つ予測できることがあります。 活発な星形成が二つの小さな銀河の塊の衝突で起こっていると考えると、1 個に見えるものは距離が近いため、衝突の影響で星が活発に形成されている可能性が高いはずです。 中には距離は離れているが、たまたま視線上に並んでいるケースもありますし、単に孤立したひとつの銀河である可能性もあります。 それらは二つに見えている銀河と同程度の星形成を起こしているでしょう。 そして、実際にそうなっていることが分かったのです(図4)。
今までにも、若い銀河の形はハッブル宇宙望遠鏡で調べられてきましたが、1個のものは1個であると断定して解析が進められてきました。 しかし、今回の私たちの研究によって、ハッブル宇宙望遠鏡でも分解できないくらい二つの小さな銀河が衝突しつつある姿がようやく見えてきました。 今回は二つと仮定しましたが、ひょっとしたらもっと多くの小さな銀河たちが衝突をしながら進化している可能性もあります。
銀河は理論が予想するように“小から大へ”の進化をしている様子が初めて見えてきました。 では、今後どのように研究を進めたら良いでしょうか? 今回の研究は、既存の世界最高レベルの望遠鏡では、もう到達できない観測分野があることを教えてくれました。 この状況を打破していくためには、次世代のスーパー望遠鏡が必要だということです。 日本が参加している口径 30 メートル望遠鏡 (TMT) やジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による新たな深宇宙探査が待たれます。
(注1)
赤方偏移 z = 4.86 に相当する距離はプランク衛星による宇宙マイクロ波背景放射の最新の観測に基づく宇宙モデルに従って評価してあります。 採用された宇宙論パラメータは以下のとおりです。 ハッブル定数H0 = 67 km s-1 Mpc-1、物質(原子物質と暗黒物質)の質量密度ΩM = 0.32、および暗黒エネルギーの質量密度 ΩΛ = 0.68。
(注2) それぞれの小さな銀河の平均的な大きさ(全光度の半分の光が入る直径)は 5,500 光年です。 また、二つの小さな銀河の間の平均距離は 13,000 光年ですが、これは天球に投影した距離であることに注意してください。
(注3) 楕円率は、楕円の長軸、短軸の長さをそれぞれ a、b とすると、1 - b/a で定義されます。 円の場合は a = b となりますので、楕円率は 0 になります。細長い楕円ほど、a > b で a と b の違いが大きくなり、楕円率は 1 に近づきます。